タイトルからも分かる通り、カードキャプターさくら(以下さっくらちゃん)のテトリス。
さっくらちゃんってだけでも商品価値としては十分なのですが、製作がアリカってところがとっても大きなポイントになっています。ゲーセンで人気を博した「テトリス・ザ・グランドマスター(以下TGM)」の制作はアリカですが、つまるところこのゲームはさっくらちゃんのファングッズのみならず、コンシューマ市場初のTGMシステムを用いたテトリスということになるんです。
こりゃ生粋のテトリスファンに期待するなと言う方がムリな話。さっくらちゃんもテトリスも好きな俺としては正に直球ど真ん中のソフトであり、期待感と信頼感で胸が一杯になっていたわけですよ。ええ。
■ウリ
このソフトの特徴として、パズル形式のストーリーモードがあります。フィールド上に点在する光るテトラミノ(プラチナミノ)を消すことが目的で、ステージをクリアするごとにアニメ版のストーリーをダイジェストで楽しめると。…要は「ご褒美付きのフラッシュポイント」ですな。
全ステージを通して20分という制限時間が定められており、序盤でヘマをすると後のステージが辛いという熱い仕様。ヘタクソな人は最終面にすらたどり着けません。
落ちてくるブロックの気に入った順番を維持できるという機能があるため、「同じ順番で振ってくるブロックをいかに速く積むか」というレースゲーのような感覚も味わえます。ムッチャ面白いです。
もちろんご褒美もアリ。最終ステージ終了時の残りタイムの多さによって、グラフィックギャラリーにバカスカ絵が追加されていきます。ちなみに俺は10分以上残りましたが、まだまだ記録は伸ばせるんじゃないかな。
このストーリーモード、地道な練習とそれに対する達成感、そして目に見える(そして萌える)ご褒美と、1人でのテトリスの楽しみ方の好例を示してくれていると思います。正直、このモードだけでも定価分(5800円)の価値はありました。
■でも…
ただ、ストーリーモードの巧さに反比例するかのように、全体としての完成度の低さっていうのが激しく露呈してしまってます。…いや決してクソゲーではないのです。TGMを元にしたテトリス部分は申し分ない出来だし、オリジナルの世界観も忠実に守っています。ちょっとアニメ版のストーリーに忠実過ぎるかなと思う部分もありましたけどね。
でも、それだけなんですよ。
「TGM」っていう現状では最高レベルの完成度を誇るテトリスと、「カードキャプターさくら」っていう、それこそお子様からいい年の人までムチャクチャ幅広い人気を誇る作品を、ただ単に抱き合わせただけなんです。
「さっくらちゃんという世界を使ってこんなことをしよう」とか、「テトリスをさっくらちゃんっぽくアレンジしてみようか」とか。そういった工夫が全く見られないのです。
このことを別のものに例えるなら…
あるべきゲームの形が「素材を吟味して自分の手で作り上げる料理」だとしたら、このゲームは「デパートに売ってる高級惣菜の盛り合わせ」とでも言おうか。
ひとつひとつのパッケージは凄く美味しいのですが、既に知っている味を繰り返し食べても新鮮味は無い、とでも言いましょうか。
■対戦が〜
この感想を持つに至った一番のポイントが対戦モード。
当たり前ではありますが、作品のキャラクターを使ってコンピューターなり友達なりと対戦するというものですが、そこでキャラが喋るセリフがゲームの雰囲気作りに全く生かされておりません。
この傾向がもっとも顕著なのが勝ちゼリフ。
最近の対戦型のゲームでは、キャラの組み合わせによって勝ちゼリフが変わるのは当たり前のことになっています。この前ゲーセンでギルティギアXXをぼけーっと見る機会があったのですが、全組み合わせ分の勝ちゼリフが用意されててなんとまあ無駄な努力を手が込んでいるなーと感心しきり。ユーザーのゲームに対する愛はああいう努力から生まれるんでしょうな。それはさておき。
当然さっくらちゃんの中にも人間関係は存在するわけで、それに影響を受けて勝ちゼリフが変わるものだ思っていたわけですが…
桃矢の知世に対する勝ちゼリフ。
「どーしたんだ〜?怪獣」
何が怪獣か。タシロだろ。
勝ちゼリフのパターンは結構たくさん用意されていて、その中には明らかに特定キャラへ向けてのセリフもあるってのに、どうしてそれをランダムで流すのか理解に苦しみます。雰囲気ぶち壊し。というか、せめて対戦キャラに合わせてメッセージを変えるというプログラムを組めなかったんでしょうか。さして難しい事を要求しているわけではないというか、キャラ物なんだから当たり前だろとか思ってしまうのですが。
そして、テトリスでの対戦という部分にも粗が目立ちます。対戦モードにおいて、ストーリーモードで出てきたプラチナミノがそのまま攻撃用のアイテムミノとして機能します。要するに必殺技みたいなものですな。
ブロックの形に合わせて7色あるプラチナミノそれぞれに違った効果があり、その効果はキャラによって異なります。ここまではいい。
…問題は、この効果が「色は違えど中身は同じ」であること。
そしてその威力があまりに絶大であることです。
キャラごとに効果が異なるとはいっても、その効果ってのはいくつかある中からのチョイスに過ぎません。ぶっちゃけた話、皆ほとんど同じ技を使うわけです。かぶりまくります。…その上、効果発動時のセリフは当然のようにランダム。何のためにさっくらちゃんのキャラを使っているのかサッパリ分かりません。
キャラの特徴に合わせた固有の技を用意する方が絶対良かったのになぁ。
所謂「キャラ勝ち対策」として共通する効果があっても構わないのですが、せめて見せ方ひとつ変えるだけでも個性は表現出来ると思うのですよ。
ここでゲームをプレー済みで原作を読んだことのある人向けに例を一つ。「縦一列のブロックを雷で消し去る」っていうものがありますが、これって小狼だけの技にした方が良くなかったろうか。少なくとも桃矢が使えるのはおかしいだろ。同じ一列消すんでも「蹴り上げのモーションで下からブロックを消去」とか見た目を変えるだけでも随分こちらが受ける印象は違うんですが、そこんとこどうですかね?
それに、さくらに関しては「ストーリーモードで手に入れたさくらカードの中から7つを選んで使えるようにする」とか方法はあっても良かったんじゃないかと思うんですが。その辺制作費用とかの問題があったのかな。
そして威力の方。
アイテム効果の中には攻撃型と防御型が存在します。これらはプラチナミノを消した瞬間に発動するわけですが、攻撃型はフィールド反転からブロック反転(ブロックの置かれている場所と置かれていない場所とが入れ替わる)、そしてブロックの無差別消去など。防御型は積まれたブロックの上または下半分の完全消去に始まり、奇数列の完全消去(結局は半分)、そして隙間埋めから列揃えまで…
出てくるプラチナミノはランダムとはいえ、ブロックを8回落とせばこの強力な効果をもったプラチナミノがバカスカ出てくるわけです。
両サイドにうず高くブロックを積むタイプの人はフィールド反転を使われたら一瞬で負け確定、テトリス狙いの人はブロック反転で一巻の終わりと、その凶悪な効果は真剣勝負にことごとく水を差してきます。
確かに初心者と上級者とのレベルの格差を縮めるという点では成功でしょうが(「テトリスはほとんどやったこと無いです」って人にさんざん苦しめられました)、一連のアイテム効果のせいでゲームバランスはメチャクチャです。
この対戦モード、コンピューターの相手に勝つことでもらえるご褒美グラフィックがゲーム内で一番大きなウエイトを占めるため(組み合わせ全てに存在します)、理不尽なアイテム攻撃に耐えながらゲームを進める羽目になります。
この辺の「ただの作り込み不足をキャラ単体の魅力だけでごまかしといたってファンサービスにゃなってんだろ感」が非常に鼻について大変気分が悪いですっていうか、アニメ本編だけじゃなくてゲームの方にもNHKがチェックを入れたほうがよかったんじゃねえのとか思ったりします。
■更に不満あれこれ
上にあげた対戦モードほどではないものの、「どうしてもっと気を遣わなかったのか?」と思ってしまうような、ちょっと原作への愛と熱意があればいかようにも対処できたであろう不満がこのゲームにはまだまだたくさんあります。
まずは音声面での極めつけ。変身後のケロちゃんが喋りません。
…小野坂昌也はまだ生きてたはずだが?
ゲーム自体がさくらカード編を舞台にしているのに、変身後のケロちゃんが喋らないってのはどういう了見なんでしょうか。まさか資金不足で雇えなかったって訳でもあるまいに。この辺どこかで質問は無かったんでしょうか。
あと、これはマジで何とかして欲しかったことなんですが、プラットフォームがPS1という特徴ならではの泣き所…全体を通して絵が汚いです。完全に解像度の低さから来る画像の荒さが原因だと思うし、PS1なだけに仕方がないとは思うのですが、ただでさえ線の細いさっくらちゃんの絵には死活問題でして。
…何がマズいって、ケロちゃんの目がどこにあるのか分からなくなることがあります。作ってる時点でジレンマに悩む事は無かったのでしょうか。
その他「アニメ版から比べても桃矢が明らかにブサイクになってる」とか「せめてグラフィックギャラリーだけでも解像度を上げられなかったのか」とか(コレもCD-ROMの容量的な制約かなー)、キャラゲーとしてみた場合の出来の稚拙さが浮き彫りに。
ディープなファンは果たしてコレを許すのか?
最後に、これは仕方ない事情がありそうなので強く言えないのですが、やっぱり普通のTGMができるモードを用意して欲しかったですね。もちろん対戦も然り。アイテムの使用/未使用が選べるだけで売り上げは上がったと思いますので。
俺の記憶が正しければ、初代PSではもうテトリスは出せなかったはず。テトリスの原作者だかなんだかが「テトリスは1ハード1本」とか言っていたせいで、カプコンに先を越されたアリカがTGMを出せなかったという過去があります。
…そのカプコンのテトリス(実はこっちも舞浜ネズミを使ったキャラゲーでした)があまりにクソだったため、テトリスファンの間では任天堂の過去と共にカプコンが忌み嫌われているとかいないとか。ペントリスーじゃねえよバーカ。
■とりあえず比較
このゲームとよく似たタイプのゲームとしては、セガが出してる「花組対戦コラムス」があるでしょう(さくら繋がり)。
ただ、似ているのはコンセプトだけ。「花組」の方がはるかに作りこまれています。
これは「自社ゲームの企画を使っている」ということを差っぴいても、元になった作品をキチンと吟味(研究)し理解した上で、スタッフが「仕事プラス思い入れ」でゲームを作っていることの結果として「コラムスでありながられっきとしたサクラ大戦の世界」という独自の持ち味を作り出しているんだと思います。いくらか不満もあるけどね。
CLAMP系ではサターン版レイアースがありますねぇセガは。
アレも偏執的な作りこみで名作ゲームの殿堂入りを果たしてましたな。この辺のスタッフさんは今オーバーワークスに在籍しておられるはずです。
■それを言っちゃおしまい
結局、アリカがさっくらちゃんゲーをコンスタントに出し続けられるのは(これで3本目)、副社長である三原氏がCLAMPの大川七瀬さん(さっくらちゃんの原作者)と親しい間柄(同級生だったとか)だってのが理由(の一つ)なんでしょう。
言ってみれば縁故関係から来るコネでの商品化な訳で、それで果たして製作者の創作意欲はかき立てられるのか?
「ただの勘ぐりだろ」と言われりゃそれまでですが、その結果としてのこの作品であるならばその姿勢ってのは誉められるもんじゃないし、出来上がったゲームの中身を見てると↑の考えが現実味を帯びてきちゃうんですよ。
どうしても「やっつけ仕事だった」としか思えない中身なんです。正直な話。
■まとめ
繰り返しになりますが、ストーリーモードはマジで面白いです。
ある種タイムアタックの趣があるので(実際にアリカでコンテストやってるし)、スピードを追求することに喜びを感じる人なんかにはピッタリですね。他の部分も目をつぶりさえすれば十分遊べるレベルのものなので(元が良いから)さっくらちゃんかテトリス、どちらかに興味があるなら買って損無しだと思いますよ。
…最後に、対戦モードでの注意点を一つ。
エリオルを使うと友達を無くす恐れがあります。注意してね。
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